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漢検1級挑戦記

2005.7.11

 私は漢字能力検定1級に挑戦し、一発で合格しました。といったら自慢げに聞こえるかもしれませんが、これまで半年かけて2級〜準1級を突破し、さらに1年かけて学習を積んできた上での成果です。そこで、この体験を通して得たものを、これから1級に挑戦しようとしている方々、とくに私はいま65歳なので、シルバー世代の方々の参考に供し、応援したいと思います。


読めるけど書けない症候群

 30代の頃から小説やエッセイを書いてきた私は、ワープロやパソコンの導入後、もっぱら、この便利なキーボードで執筆するようになりました。そんなある日、所用で申請書に記入しようとして、漢字がさっぱり書けなくなっていることに気づき愕然としたのです。読めるけれども書けない、それもきわめて易しい漢字さえ書けないのでした。
 別に手書きでは書けなくてもキーボードで書けるなら執筆に支障はないですが、子供の頃から親しんできた手で書き記す能力がなくなっていることは、漢字文化圏に生きる者として、何か大事なものを失いつつあるような気がしたのです。


前哨戦−2級と準1級

 そこで、漢字能力検定を受けてみようと思い立ち、まず高卒レベルという2級からチャレンジすることにしました。これは2カ月間、2冊の問題集をマスターして200点満点を190点
@でクリア。続いて準1級は次の試験まで約4カ月間あり、3冊の問題集を学んで182点Aで合格しました。出題範囲の漢字が2級2000字、準1級3000字なので、いずれも問題がある程度限定され、さほど難しいものとは思えませんでした。
 
@平成15年度第3回検定、A平成16年度第1回検定、いずれも札幌会場。

 役立った問題集は下記のとおりです。

漢字検定2級試験問題集       成美堂出版
漢字検定2級[頻出度順]問題集   高橋書店
(この当時、漢検協会出版の問題集があることをまだ知りませんでした)

完全征服「漢検」準1級         日本漢字能力検定協会
漢字検定準1級試験問題集      成美堂出版
漢字検定準1級[頻出度順]問題集 高橋書店


1級−やる気になるまで

 さて、いよいよ最上位の1級です。さっそく問題集を買ってきて試してみましたが、「これって日本語かよ」とぼやいてしまうほど、見たことも聞いたこともない言葉ばかり。なんと200点中たった48点しかとれませんでした。
 このとき、家人に「十段がそんなことでいいの」と冷やかされました。私は“広辞苑十段”という免状を持っているのです。といっても、これはかつて『広辞苑』第4版発刊のさい、発売元の広告キャンペーン・クイズに応募して100点満点をとり、その免状と黒帯(実は本の帯)をいただいたもので、当然ながら広汎で専門的な漢検1級のほうが比較にならない難しさなのでした。
 1級の問題は日本語の実用性からいうと、日常生活にはほとんど使う言葉ではありません。まるで漢文読み下しのようです。英語志向の風潮にある現代、言ってみれば時代錯誤、今どきそんなものを覚えたところで無用の長物と思えました。解けない自分の能力を棚に上げて、「こんなのやってもしようがないなあ」と問題集を放り出してしまいました。

 それから暫くして、インターネットでAさんのIT資格ゲッターの不合格体験記という文章に出会いました。この人は司法、企業、建設、情報処理等、数多くの資格を持つ並外れた頭脳の持ち主ですが、1級に2年間5回挑戦して合格できず、やむなくひとまず撤退。しかし諦めたわけではない、とこんなふうに書いていました。
「漢検1級の合格者にはシニア世代が多いそうだ。ひょっとしたら、この勉強に耐えるだけの精神力を得るには、もう少し年を重ねた方が良いのかもしれない。若さが残っているうちは他の試験の勉強を優先して、還暦を迎えたら漢検のチャレンジを再開しよう」
 1級を受検する“適齢期”は老年だというのです。老年真っ只中の私は、まさに今がその時と感じられ、「やり始めたんだから頂点を極めよう」と何か意地のようなものが湧いてきました。実際には無用の長物かもしれないにしても頭の体操にはなるのでないか、クイズ感覚で解いて遊んでみるのも楽しかろう、という考えに切り換わったのでした。


問題集をどう選ぶか

現行の出題と同じ本を
 準1級までの問題集はどこの出版社もいい本を出しています。ところが1級の問題集は他の級に比べて好適な本に恵まれていません。そのことの最たる点は、平成14年第3回の試験から出題の形式が変更され、新字体を旧字体に直す設問はなくなり、当て字から国名・地名が消え、語選択書き取り、熟語・一字訓の読み、対義語・類義語が新たに加わっているにもかかわらず、依然、旧設問で編集された問題集が新版として店頭に並んでいることです。

 何冊か買ってしまってそれに気づき、いまいましい気持ちになっているとき、漢検協会が『完全征服「漢検」1級』を発刊しました。入手してみると、これとても過去問題の抜粋集であることから、旧字体直し問題はないものの、当て字に国名が混じっていたり、音訓相補の問題が極端に少なかったりと、多少の不満を感じはしました。しかし、何といっても本家本元が出した本ですから出題確率の点から最も信頼できる問題集のはずです。私は、この中から当て字の国名・地名を除くすべてを、丸ごと頭に叩き込むことにしました。
 それから間もなく、成美堂出版が2006年版で現行の設問形式に対応した初の問題集を発刊しました。本試験と同じ、国内でただ1冊の本です。これを店頭で見つけたときは嬉しく、思わず「出た!」と声が出ました。毎回、得点で即合否がわかり、自分の能力を測定できます。日をおいて試すと目に見えて点数が上がってきますから励みになります。また回を重ねるごとに受検時の解答要領のようなものも体得できて最適の問題集です。
 この2冊は太鼓判を押してオススメできます。

完全征服「漢検」1級           日本漢字能力検定協会
漢字検定1級試験問題集 2006年版  成美堂出版

不得意分野の補強に
 そうかといって、この2冊だけのマスターで本試験に合格ライン160点以上の正答ができるのかどうか不安です。1級の出題対象6000字は、2級から準1級へ上がるさいの2000字から3000字へ増えたのとは比較になりません。文字数こそ2倍ですが、字句の組み合わせは予想もつかぬほど膨大になるはずです。そこで、どうしても不備、不満を承知で他の問題集も開いてみることになります。

 S社は出題数が多いものの、問題をひねって作っているので余分なことをやらされているようで、こんな寄り道をしている暇はないという気がしました。H社は読みは易しすぎ、書き取りは難しすぎの傾向で、文章題は旧仮名遣いのものまであってイマイチ。T社〜Z社は準1級と抱き合わせなので、出題量〜レベルともに不満が残りました。こうして違和感を抱きながら数冊、不得意分野を抽出して学習しましたが、総じて労多くして功少なしというのが私の実感です。

 もっとも、漢検に挑戦するのは合格証書を取得することがすべてではありません。それをめざす過程で多くの漢字を覚え、ボキャブラリーが豊富になっていくことを望んではいますが、漢検を受ける以上、合格することが第1目標なのですから、やはり最短距離を効率的に走りたいとの心境になってしまうのは誰しも同じでしょう。


効果的な学習法

まず意味を知ること
 読みであれ、書き取りであれ、対義語・類義語であれ、はたまた故事・成語・諺であれ、意味がわからないまま無理やり暗記したとしても、それは間もなく脳の中から消えていってしまいます。やはり手間がかかっても、不明な字句は辞書を丹念に引いて、その意味を知ることです。
 とにかく読めない、書けない、意味不明と、3拍子そろってわからないのですから、辞書を引くしかありません。解けない問題をピックアップして(というより、最初はほとんど全問に近い)片っ端から辞書で引きまくりました。この方法は問題を解く時間より、辞書を引いてその要点をメモする時間のほうが長くなって、遠回りしているようでしたが、意味を知ることで記憶に残り、結果的には近道になったと思います。

 この学習で役立ったのがパソコンの辞書検索でした。私はエディタ(愛用しているのはWZ Editor 5)で文章を書いており、辞書検索はDDWinというフリーソフトで開くようマクロ設定しています。つまり字句を調べるときは、文章(テキスト)の対象文字列にカーソルを置いて、このマクロを起動させれば、パソコンに内蔵している『広辞苑』や『漢字源』など複数の辞書が瞬時に開き、その文字〜意味を表示してくれるのです。これをコピーして貼り付けた抜粋集を作成し、自分の“虎の巻”としました。

 もし紙の分厚い辞書のページをめくって調べていたら、手間暇がかかりすぎてこれほど効率的な学習はできなかったでしょう。デジタル処理で書いてきたために漢字を忘れたのではありますが、その失ったアナログ感覚を復活させる学習に、デジタル技術が有効だったという相関関係を面白く思います。
 ただ1級の問題には『広辞苑』や『漢字源』に載っていない超難解な字句もけっこうあり、そのときは『漢検 漢和辞典』『漢検 四字熟語辞典』を手でめくって調べるしかありませんでしたけれども。

四字熟語と難字
 覚えづらいものに四字熟語があります。同音異義の多い日本語にあって音だけ聞くと何のことやらわからないものも多いですが、これが読みや対義語・類義語、故事・成語・諺のネタ元になっていることに気づきます。
 たとえば「
禅譲」の対義語「ほうばつ」は「禅譲放伐」を、「嚆矢」の類義語「らんしょう」は「嚆矢濫觴」を知っていたら苦もなく解けるはずです。また「千丈の堤もロウギの穴を以て潰ゆ」との諺も「螻蟻潰堤(ろうぎかいてい)」が頭にあれば迷わず答えられるでしょう。このように四字熟語は分野が別の問題にも応用が効きますから、しっかり学ぶことで解答率は相乗的に上がってくるものです。

 「
謗(ざんぼう)」「勃(うつぼつ)」「(くしゃみ)」「(のみ)」「(すっぽん)」など複雑で難解な漢字は、何度も書いて記憶するしかありません。しょっちゅう間違った「」の字を、私は苦しまぎれに「クロヒメンテン」と口ずさんで覚えました。また「瓜にツメあり爪にツメなし」を真似て「めるにシタなし」(「礪(しれい)」「尾(しび)」「羊(ていよう)」は「氏」の下に「一」がつくのと区別するため)としたり、上下が入れ違う誤りをしがちな挨拶(あいさつ)」「傀儡(かいらい・くぐつ)」「薔薇(ばら)」は「ムくくく」「キデン」「ソウビ」としたりして、まあ妙な記憶法をひねり出したものです。

 「倭
(わこう)」と「纓(えいかん)」はウかんむりかワかんむりか、「罪(えんざい)」と「[+]a膠(にべ)」は点がつくかつかないか、「節(ふしくれ)」「為虎翼(いこふよく)」と「埴(たんしょく)」「全(せんぜん)」「羹鱸膾(じゅんこうろかい)」は点がつくか「ム」が入るか、「容(ようかい)」と「[+]b(そったく)」の違い、「悔(ざんげ)」「滅(せんめつ)」(くじ)」「露(かいろ)」等々、類似していて少し違う紛らわしい漢字は、そのつど大きな紙に書き出し一覧にして覚えていきました。
 
1級の出題漢字はJIS第2水準まで。ただしこれは目安であって、その上のレベルも幾らか含まれる。たとえば []で表示したaが第4水準、bが第3水準。

表記の混乱も丸ごと
 さまざまな漢字を学ぶにつれ、新字体と旧字体との矛盾、混乱の現状を思い知ることになりました。たとえば、ドトウは「怒
」でも「怒」でも正解ですが、チュウチョは「躇」でないといけません。ボウトクは「冒」で許容字体ですが、セキトク「尺」、コウシ「」は古い旁(つくり)でないといけない、というややこしさです。パソコン業界と日本語表記を司る機関との合意が得られるときはくるのでしょうか。嘆いてみたとて、これが今のルールなら、混乱も丸ごと受け入れていくしかありません。
 これらの許容字体を確認し、漢字の一点一画の細部(ハネかトメか、ヌクかオサエか等)を知るために『漢字必携一級』も座右に置いておく必要があります。
 こうして、問題集以外に下記のものが必携の参考書でした。

漢検 漢字辞典          日本漢字能力検定協会
漢検 四字熟語辞典       日本漢字能力検定協会
漢字必携一級           日本漢字能力検定協会
広辞苑 第5版(CD-ROM版) 岩波書店
漢字源(EPWING版)       学習研究社


たそがれ脳の活性化

己を知ること
 私の漢字能力の弱いところをピックアップした“虎の巻”、これを反復学習することで実力がぐんぐん上がってきたのは当然です。しかし、そればかりやっていればいいかというと、そうでもないのです。前回、無意識で書けた漢字が日をおいて再度試みると、どんな字だったか思い出せないこともあったからです。齢を重ねるうちにいつか忘却の霧がかかっているのでした。
 また1回目に間違った答を書いてしまって、しっかり正答を覚えたはずのものが、2回目以降に再び1回目と同じ誤答を書いてしまうことが多いのにも気づきました。頑迷固陋は年寄りの常ですが、記憶力まで変に頑なのでした。

 若い頃と違う利点は、人生経験をたくさん積んでいますから文字感覚もそれと結びついていることです。この字は孫の名前の旁と同じだとか、この言葉はあの挨拶のときに用いたとか、関連づけができているのです。間違った答をしても正解をみると、なんだこの字だったのか、とせいぜい1〜2度書いてみる程度で覚えられます。覚えられるというより、すでに頭の中に記憶されていて、思い出すきっかけさえつかめれば出てくる感じ。要はこのきっかけをどこに求めるかです。

連想と反復と
 記憶は脳の海馬というところで一旦ファイルされ、それから大脳新皮質の貯蔵庫に送られるそうです。新しい記憶をいつまでも残る記憶として定着させるには、奇抜な連想で海馬に大波を起こさせるか、繰り返し反復するかしか方法はないとか。奇想天外なアイデアなんてそんなに浮かぶものではないし、凡人にはやはり反復学習が主になりましょうか。
 尾崎一雄の小説「虫のいろいろ」に、病で寝ている主人公の顔にしつこく止まりたがる蝿を、3度追い払うと追い払われることを記憶してやってこなくなる、という記述がありますが、私の脳は蝿並みらしく、3度同じ間違いをすることはざらにありました。衰えた脳は4度目でやっと記憶されるという程度のもののようでした。

 一つの問題集を何度か繰り返し190点台はとれるようになっても、新たな問題集に取りかかると130点くらいしかとれない状態が続きました。6000字という範囲の広さから出題傾向が絞りきれず、深い漢字の森に迷い込んだようでした。それが10カ月ほど経ったころ、最新版の過去問題集(つまり前年度の本試験)を入手して試してみますと、3回とも180点台がとれましたのでイケると確信し、受検申し込みをしました。そして本試験の結果は169点
B。これまで出会ったことのない問題がけっこうあって、不本意な成績ながらどうやら合格できました。
 
B平成17年度第1回検定、札幌会場。

 かくて2級が2カ月間、準1級が4カ月間、1級が1年間の学習で、3ステップをすべて一発でクリアしました。志してから正確な情報を見分けるのに苦労もしましたが(そういう意味で、下記の推薦サイトは有益な裏情報がテンコ盛りです)、同時に楽しませてもらった1年6カ月でした。何であれ、目標を立ててそれを達成するということは充実感のあるものです。
 今後はこの学習を通じて身についた辞書の引き癖を持続して、生きる指針になる言葉、現代の世相を斬る言葉などをノートに書き出していくことを楽しみたいと思っています。今度は紙の辞書をゆっくり手でめくりながら。

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